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Interview “Do my Best!”

―線路に「みどり」で付加価値を― 鉄道緑化の仕事

造園事業部 鉄道緑化部 鹿島 大地 係長 41歳

造園事業部 鉄道緑化部 鹿島 大地 課長

My Best Project

元住吉〜日吉駅間擁壁工事

このプロジェクトは総延長510m、面積1,453㎡の大規模壁面緑化プロジェクトで、鉄道緑化部が扱った工事の中で一番大きな壁面緑化工事でした。
景観の向上とヒートアイランド現象の防止効果で、沿線近隣の暮らしに新たな豊かさを提供しました。

「鉄道緑化」と聞くと、草刈りなどメンテナンス的なものをイメージしていましたが、東急線沿線の植栽に関する多くのことをされているのですね。改めて「事業・業務」の説明をお願いします。

鉄道緑化部は、東横線をはじめとした8路線の東急線沿線の緑化管理を主業務としておりますが、その他に駅施設、駅ビルの緑化管理、緑化工事も行っています。
植栽の管理としては、草刈りの他にも、沿線の植栽を剪定する作業もあります。例えば、倒木の危険がある植栽を事前に察知し剪定できるように、日頃から乗車巡視などで沿線の緑の状況を把握しています。
沿線の緑に関しては近隣の方からのご意見が多く、汚れや虫害、さらにはゴミが捨てられているといった声が届きます。そういったご意見をいただき、東急線のブランドを落とさないよう、巡視などを徹底し美しい緑の保持に努めています。今回ご紹介した駅間擁壁工事は、緑化工事に該当します。

「元住吉〜日吉駅間擁壁工事」のように、大規模な壁面緑化は他に類を見ないものかと思います。プロジェクトの完成までに、どのような課題があったのでしょうか?

電車を走らせるものである鉄道構造物は、安全性保持の観点から、基本的に手を加えてはいけません。そのため、このプロジェクトのように既設の壁面を緑化するためには、様々な課題を乗り越えなければいけませんでした。
まず、壁面に高さがあるため、植栽を植えるパネルは2m×1mという大きなものを500枚以上取り付けることとなりました。一方で、壁の強度を損なうことのないよう、緑化パネルを支えるアンカーは鉄骨を避ける限られた場所にしか打つことができず、その数は通常工法の一割程度となり、植栽に許される重量にもかなり制限がありました。そこで私たちは、施工者である東急建設様と協議の上、植栽のプロとして、重量の負荷が少なく、乾燥に強くて、よく茂る「ヘデラカナリエンシス」という常緑つる植物を提案。さらに、施工後管理の軽減策として、線路に降った雨を水抜きする穴を活用し、土壌を潤す仕組みを採用しました。

課題の多いプロジェクトを成功させるためには、東急グリーンシステムのどんな「強み」「特性」が生かされましたか?

まず東急グループの一員として、鉄道沿線での工事経験や専門知識が豊富にあることが、私たちの強みです。
その上で、植栽の専門知識を持った社員がチームとなって試行錯誤し、施主様のご要望にお応えするために自分たちの持っているものを全力で出し合います。私自身、大学で造園の勉強をし、卒業後は造園業者として公園をはじめとした都市の様々な場所に木を植えていました。そうした中で培った経験が、現在の業務で生きています。
さらに、社内でアイデアを出し合う際には、前例にとらわれず、新しい提案がしやすい雰囲気が全社的にあるということも、このプロジェクトの成功につながったと感じています。

そうした課題を乗り越えて完成したプロジェクトです。「喜び」も大きいものだったのではないですか?

無機質なコンクリートが徐々に緑に覆われていく様は圧巻の一言でした。徐々にそして力強く伸びていく植物を愛おしく感じました。その思いを近隣の居住者様にも感じていただけたようで、施工中に「ちょっと緑があるだけで全然違うわね」とうれしい言葉をかけていただきました。
また、私がこの業界に入ろうと思ったきっかけとして、公園など後世に残る仕事をして「この緑はパパが作ったんだよ」と子どもに自慢したいという目標があったので、このプロジェクトでひとつの夢が実現しました。

「鉄道」という社会インフラを支える中で、「モットー」としていることは何ですか?

交通というインフラに関わる私たちの業務で、一番に考えなければならないこと、それは「安全」です。
「安全」は言葉で表すと一言ですが、作業員の安全、第三者への安全、列車運行への安全など、様々に細分化されます。私たちが危険な行動を起こすと列車運行に支障が生じ、運行を停止させてしまう恐れがあります。それは交通インフラの管理を委託される者としては絶対にあってはいけません。私たちは作業班末端まで「安全」をモットーに業務に当たっています。
その特殊性を象徴するのが、私たちが保持する2つの資格です。1つは「東急電鉄工事監督者」の資格です。こちらの取得は3年以上の実務経験が必要となります。もう1つは、「列車見張員」の資格で、列車が来たことを適確に作業員に合図し、電車が来る20秒前には完全に作業を停止させるものです。どちらも、作業者を管理する立場として、どんな利益よりも安全を優先し、事故につながるような危険な行動をさせないための責任を担う資格です。
また作業の安全性を高めるために、自社はもちろん他社線や鉄道以外の建築系の事故例からも学び、安全確保のために自分たちがどういった行動をするべきかの意識付けを作業員全員で大切にしています。

東急グリーンシステムでは、お客様や協力会社様とのパートナーシップをとても大切にされています。大切なお客様、パートナーへの「約束」を一つ挙げるとしたら、どんなものになりますか?

まずはやはり「安全安心をお届けする」ということですね。その上で、「東急グリーンシステムに任せて良かった。良いものができた」と言っていただけるように、何を考え、何を求められているのかを、お客様の懐に飛び込んでお聞きすることを約束したいと思います。
そのためにも、常に笑顔でお客様に接することが大切です。街中にある緑を見るときのように、私の笑顔でお客様に安心していただき、いろいろなことを相談していただきたいと考えています。そうした会話の中で出てきた課題は、常に全社で共有し、次の「安全安心」につなげていきます。

「鉄道緑化」は、安全を守りながら、鉄道を利用する人々の暮らしを豊かにする事業ですね。「どんな未来を、みどりで描いていきたい」とお考えですか?

沿線を花畑のように彩ることができれば、通勤や通学で鉄道を使う皆様に四季の喜びを届けられると考えています。その実現には技術的にも課題が多いですが、当社はそうした壁を超えることでお客様へのサービスの質を高めていくという心構えを全社的に持っている会社です。線路に「みどり」で付加価値を提供できるように、これからも技を磨いていきます。

※元住吉〜日吉駅間擁壁工事は、公益財団法人都市緑化機構が主催する 第11回屋上・壁面・特殊緑化技術コンクールにて、「都市緑化機構会長賞」を受賞しました。

インタビューは制作にかかわる最低人数で実施し、換気性の良い広い場所で、検温、マスク着用など、新型コロナ感染症対策を取った上で、撮影時のみマスクを外して行いました。(2021年5月実施)